毎年発表されるガートナーのテクノロジーハイプサイクルが夏に発表されたことが記憶に新しいですが、2018年は特にAIやIoT、VR・AR等のテクノロジーが進歩し、マーケティングにおいても新たな手法や戦略を聞くことが多かったように思います。
先進テクノロジーのハイプサイクル:2018年(出典:ガートナー ジャパン、2018年8月)
一方、Adobe社のMarketo買収やGDPRの施行、Facebookにおける個人情報流出事件など、マーケティング業界の既存の枠組みやシステムに大きく影響与える出来事もありました。
2018年に起きた大きな出来事と最新のマーケティングトレンドをまとめてご紹介します。
目次
2018年に起きた3大BIGニュース
大手マーケティングツールの巨額買収ラッシュ
世界でも有数の知名度を誇るマーケティングオートメーションツール「Marketo」が米国Adobeに買収されたことは業界のみなさんも記憶に新しいのではないでしょうか?
2018年は他にも日本人が創業したシリコンバレー発マーケティングツールTreasure Dataがソフトバンク傘下のARM社に買収されたりデータ統合・分析プラットフォームのDatoramaがSaaSの代名詞とも言えるSalesforce社に買収されたりと、マーケターなら一度は聞いたことのあるツールが巨額で買収された近年稀にみる年だったかと思います。
近年BtoBのSaaSサービスは投資額も増えそれに伴いマーケティングツールの価値はどんどん上昇しております。来年はどんなサービスからニュースが聞けるのか楽しみです。
国内広告代理店の競争激化
2018年8月に博報堂DYメディアパートナーズが、D.A.コンソーシアムホールディングスを完全子会社化することを発表した矢先、2018年10月に電通がセプテーニ・ホールディングスの約2割の株式を取得すると発表、翌日にはCCI、VOYAGE GROUPと資本業務提携の発表をするなど日本の二大広告代理店が本腰をあげネット広告業界に乗り出してきました。
いよいよインターネット広告も次のフェーズに入ってきそうで、来年の動向に目が離せませんね。
個人情報のトラブルと規制
2018年、「個人情報」の取り扱いについてもニュースが多く取り上げられました。
中でもビッグニュースとなったのは、「Facebookの個人情報流出」のニュースです。Facebookのユーザー8700万人分の個人情報がコンサルティング会社ケンブリッジ・アナリティカに流出していることが発覚しました。
日本でも2003年に個人情報保護法が制定されましたが、インターネット上での個人情報の保護に関しては、整備がされていませんでした。
しかし、海外ではオンライン上での個人情報保護に関して注目がされており、その法整備が進もうとしています。
また、2018年に注目されたのがGDPRでした。
GDPR(General Data Protection Regulation、EU一般データ保護規則)は、EUにおける個人データ保護に関する法律です。1995年に施行された「Data Protection Directive 95(EUデータ保護指令)」)に代わる法規制として2016年4月に制定、2018年5月25日に施行されました。
GDPRについて簡潔にまとめると以下の通りです。
①IPアドレスやCookieのようなオンライン識別子も個人情報とみなされる。
②企業は個人情報を取得する場合、自らの身元や連絡先、処理の目的、第三者提供の有無、保管期間などについてユーザーに明記し、同意を得なければならない。
以前は個人情報として定義されていなかったIPアドレスやCookieといったオンライン上での識別子も個人情報として認定され、その取得にはユーザーの許可が必要となります。
さらに必要以上に個人情報を保存することが違法になったため、個人情報を半永久的に保存することは難しくなりました。
GDPRに従わなかった場合、最大で企業の全世界年間売上高の4%以下、もしくは2000万ユーロ以下のいずれか高い方が適用されます。
2000万ユーロとは、日本円で20億円を超える金額のため、かなり高額の罰金だということができます。
またGDPRは以下のような条件の企業に対して適応されます。
(1) EUに子会社や支店、営業所などを有している企業
(2) 日本からEUに商品やサービスを提供している企業
(3) EUから個人データの処理について委託を受けている企業
(引用:EU一般データ保護規則(GDPR)の概要と企業が対応すべき事項)
しかし、見落としてしまいがちな条件として、以下のような条件もあるので注意する必要があります。
・EU圏内にいるユーザーのWeb上の行動データを取得している場合
・短期出張や短期旅行でEEA内に所在する日本人の個人データを日本に移転する場合
・日本企業から EEA内に出向した従業員の情報を日本から EEA内に個人データを送付する場合
・日本から EEA内に個人データが送付され、EEA内で処理された個人データを日本へ移転する場合
そのため、インバウンド向けのWebサイト等を運営しておりCookieを取得している場合、適切な個人情報の処理をしなければ違法行為となり、罰則の対象になってしまいます。
このように、2018年では個人情報の管理に関して以前にも増して厳しい法律が施行されました。それに伴って、現在行われているマーケティングの手法が出来なくなってしまうのではないか、という懸念が日本では広がっています。
現在広告のターゲティングはオンライン識別子をもとに行われています。そのため、オンライン識別子を取得しなくてもターゲティングができる技術や、新たなマーケティングが生まれる可能性もあります。
最新テクノロジーを活かしたマーケティングのトレンド
冒頭でもご紹介した通り、2018年にはテクノロジーがマーケティングにおいて活用され、様々な形のマーケティング手法が生まれました。
ジオマーケティング
ジオ(地理)マーケティングは、ロケーションをターゲットにしているマーケティングの手法です。
ユーザーの位置情報を把握し、そこに各種データを組み合わせることで、ピンポイントで顧客分析(セグメンテーション)ができるのが強みです。
取得した位置情報をもとに、ユーザーの居住地や現在地に適した情報を提供することができるようになるので、地域密着型のサービスや地域限定の広告などを効果的に配信することが可能になります。
例えばTwitter社では、ツイートの位置情報とそのツイートの内容からユーザーの動向を探り、適切なマーケティングを行うというものです。Twitterにアクセスする端末は、グローバルでモバイルが83%、日本はさらにモバイル比率が高いと言います。
また、Twitterの利用目的も多様化しています。Twitter Japan株式会社は、電車遅延や災害時など、いま起きていることをリアルタイムに知るためにTwitterが最初に開かれていると発表しており、最新ニュースを知るためにも有効だと説明しています。
具体的な活用事例を以下に紹介します。
概要:DeNA「プロ野球ロワイヤル」(ゲームアプリ)
施策:プロ野球に関心が高い人にアプローチするため、位置情報を使用し球場を訪れる人に広告を配信
結果:クリック率は194%、インストール数は186%、CPIは95%に削減(従来の広告施策との比較)
AI
近年急速な成長を遂げているAIも2018年のマーケティングトレンドです。
マーケティングの世界においてもビッグデータの重要性が叫ばれ、多くの企業がビッグデータ収集に投資を続けてきました。それに伴ってビッグデータの収集は進み、様々なデータの構造化やそれらのデータ分析も高いレベルで行われています。
しかし、膨大な情報量によってその情報分析や情報統合には以前にも増して大きな負担がかかり、なおかつリアルタイムで情報を分析することはほぼ不可能となりました。
そこで必要とされていることが、「AIによって分析と予測を自動化する」ことです。
膨大なデータを回収し、それをAIによって分析から予測、予測に合わせて対応するという一連のプロセスを自動化することでより迅速なリアルタイムなマーケティングを行うことが出来ます。
AIによって、顧客1人1人にパーソナライズしたマーケティングが行えること、またそのために顧客に対してリアルタイムで対応することがAIを活かしたマーケティングの強みということができます。
例えば、カラフル・ボード株式会社が提供する「SENSY」がアパレル業界において活用されています。ユーザーの好みを分析し、顧客1人1人に対して好みに合わせた商品をおすすめするサービスです。
その効果に関しては以下の通りです(以下、引用)
同社では、6月中旬に若者向けスーツブランド「P.S.FA」の会員に向けてDMを発送しました。そのうち12,000人に対しては、2014年以降の購入履歴をもとに「SENSY」が掲載アイテムを選定。同時に、別の会員には従来どおりのDMを送付しました。
キャンペーンの途中で比較したところ、「SENSY」を使ったDMは、通常のDMに比べ来店率がメンズで15%、レディースで12%も高いことがわかりました。
同社では、今後「P.S.FA」のオンラインショップにも、「SENSY」を使ったレコメンド機能を搭載するとのことです。(出典:https://www.tis.jp/special/marketingit/concept_ai_marketing/)
AIの活用によって、見込み顧客1人1人に対して適切なマーケティング手法を選択し、認知から商品やブランドに対して興味関心を持ち、購入を検討し、そして購入に至るまで、パーソナライズすることが可能になっています。
今後のマーケティングの展望
今後、2020年の東京オリンピックに向けてさらに加速度的なテクノロジーの進歩とその活用が行われます。
5Gの導入や、自動運転、VR・ARの発展などによってより視覚的、感覚的に人々の五感に対して直接的にアプローチすることが可能になります。
また、広告と一口に言ってもモバイル、ネットなどのオンラインだけではなく電車内や街中でのオフラインの広告もさらに多様化していく見込みです。
「マーケティングにおいてどのようにテクノロジーを有効に活用するか」という課題に向き合うためにも、こうしたテクノロジーのめまぐるしい進歩をキャッチアップし、マーケター自身が正しく理解することがますます重要になることでしょう。