オウンドメディアのリニューアルを経て「SDGs」の普及を目指す朝日新聞社の挑戦の裏側【インタビュー】


2015年9月に国連サミットで採択された「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」。誰一人取り残すことなく、包括的で持続可能な社会の構築を目指す世界的な取り組みで、近年は企業経営の観点でもその重要性が高まっています。朝日新聞社では2017年からSDGsへの取り組みを強化しており、その一環としてSDGsの普及啓発を目的としたオウンドメディア「2030 SDGsで変える」を運営しています。

サムライトではそのメディア運営を長年支援してきましたが、まだ認知度も理解度も低いSDGsに関していかに情報を発信すべきか、二人三脚で様々な試行錯誤が行われてきました。そこで今回は、朝日新聞社マーケティング本部の川田直敬様にインタビューを行い、メディア運営の難しさやそこから得た発見、メディアとしての未来像などを伺いました。

時代に求められる新しいメディアのあり方を模索していた

――現在、「2030 SDGsで変える」というオウンドメディアを運営されていますが、昨年までは「未来メディアプロジェクト」という名前でした。まずはそのあたりの経緯からお話いただけますか?

今から4年ほど前、私がブランド推進本部(現マーケティング本部)にデスク(次長)として着任したとき、新しいメディアの形を探していこうという実験的なミッションにチームで取り組んでいました。メディア環境がこれだけ急激に変化する中で、朝日新聞社はどのような形であれば世の中に必要な存在として認められていくのか――。

そこで、当時ニューヨークタイムズをはじめとする海外メディアが盛んに行っていた「ソリューションジャーナリズム」「課題解決模索型報道」という動きを朝日新聞としてトライしてみようという話になりました。

具体的には、ワークショップやハッカソンなどを開催し、社会問題に対して意識の高い人と新聞記者が一緒にいろいろな課題について解決方法を考え、発信していく、あるいは参加者の皆さんがそれを持ち帰る、そんな場づくりを2014年にスタートさせました。

その一連のプロジェクトを”未来メディアプロジェクト”と呼び、その情報発信の場として「未来メディアプロジェクト」というオウンドメディアを立ち上げました。

その後、2017年1月に朝日新聞社としてSDGsに本格的に取り組み始めたのを背景に、2017年末から2018年あたまにかけて「未来メディアプロジェクト」から「2030 SDGsで変える」へとメディアをリニューアルし、SDGsテーマに特化した形になりました。


「2030 SDGsで変える」(https://miraimedia.asahi.com/

――サムライトでは「未来メディアプロジェクト」のメディア立ち上げ時から支援させていただいています。

このプロジェクトでお付き合いが始まったのは2016年8月ですね。「未来メディアプロジェクト」をもっと多くの人に読まれるメディアにしたいという大きな課題を抱えていましたが、何せ我々はWebについてはほぼ素人。そこで情報サイトの構築やUX、コンテンツ制作、SEOなど、我々にはないノウハウに期待してご相談しました。

また当時は分散型メディアが注目されていて、今後はサイトよりもコンテンツ一つ一つをどこでどう読んでもらうかが重要、なんていうことがしきりに言われていました。現在はまた状況が変わっていると思いますが、新しいメディアの形、情報発信のあり方についてもぜひ教えてほしいとお願いしました。

ちなみに、サムライトは2016年4月に朝日新聞グループに入ったばかりでした。”仲間”になったのを機に相談しようと考えたという背景もありましたね。両社が二人三脚で取り組んだ、かなり最初のほうの事例だと思います。

”SDGsって何?”から始まったメディアづくり

――「2030 SDGsで変える」にリニューアルした時について詳しくお聞かせください。

私たちは朝日新聞社の取り組みを広く知ってもらう場、あるいは社会課題に関する一つの情報発信のツールと位置付けて「未来メディアプロジェクト」の運営を続けてきたわけですが、SDGsという概念が加わってから、「そもそもSDGsって何?」っていう議論が度々起こり、そこについてサムライトさんと相当ディスカッションをしました。

当時、多くの人にとって、SDGsなんてちんぷんかんぷんなわけです。私たちでさえもSDGsの本質的な部分を理解しておらず、どういう情報発信の形が良いのかお互いに分からないという状態でした。

朝日新聞東京本社 マーケティング本部 マーケティング部 部長 川田直敬様

 
――メディアの具体的なターゲットは誰になるのでしょうか?

ターゲットについても相当悩みましたね。「誰に読んでもらいたいんですか?」とサムライトさんに問いかけられ、何度も議論しましたが、当時私が言っていたのは「いや、ターゲットはないんだ」と。

なぜならSDGsというのは先進国も途上国も企業も一緒になって目指す、世界規模の壮大な目標です。さらに当時の国連の人によると、「SDGsのカギを握るのは企業と若者だけど、これからキャンペーンを始めるからまだ誰にも認知されていない」という話でした。そのため、まずはオールターゲットでやってみるしかないと考えていました。

どこの誰にどういうテーマが読まれるか分からない、という状況からのスタートだったので、サムライトさんにとっても大きなチャレンジだったと思いますよ。

例えば飲料メーカーの広告だったら、誰がターゲットでどんなクリエイティブで、どういう広告施策で・・というノウハウがあって、それが売上などの明確な結果につながれば良いとされますよね。しかし「2030 SDGsで変える」は、朝日新聞社の取り組みを広く伝えるといった抽象的な目標しかなく、具体的な成果指標さえもない状態でした。

今思えば、サムライトさんには「ターゲットも定まらない。SDGs自体もこれから認知される段階」というとんでもない課題をご相談してしまいましたね。(苦笑)

――今年春頃には記事カテゴリの見直しもサムライトからご提案しました。

それが直近のリニューアルの大きなポイントでしたね。17のゴールがあるということと、それぞれの記事コンテンツが各ゴールとどのように関連しているかがユーザー目線ですぐに理解できるということが、SDGsの情報発信において非常に重要だということが、メディアを運営する中で見えてきたんです。

以前はゴールが17個あるから記事も17個にカテゴリ分けして、それぞれのジャンルで全部取材すれば良いと考えていました。でもそれはSDGsを正しく理解していなかった証なんです。

そこから次第に何が大事なのかが分かってくるにつれて、より理解しやすいサイト構成を考えるようになりました。当然、理想的な形と、実際のサイトストラクチャーの部分で相反する点が出てくるので、そこはサムライトさんの知恵と技術力で実現していただいているという形ですね。

PDCAを回すことで次第に成功の方程式が見えてきた

――KPIとしては何を設定していますか?

「2030 SDGsで変える」ではモノを売る等の直接的なゴールがないので、今のところPVをKPIとしています。どの記事がどれだけ読まれているか、あるいはどれだけサイト内を回遊してもらえるかが重要になります。

ただ、どの程度の規模のPVを達成したら成功と言えるのか、その判断は今でも難しいところですね。立ち上げ当初も、「こういう目的のサイト運営で、目標PVはどれくらいに置いたら良いんですか?」とサムライトさんに聞いていましたよね(笑)。これは永遠の課題かもしれません。多ければ多いに越したことはありませんが、当然コストもかかる話ですし、そこが一番悩ましいです。

――KPIの達成に向けて、Webメディアでは様々なデータを元にPDCAを回せるというメリットがあります。

私たちもアナリティクスツールで確認してはいますが、実際にスコアをどう読み解くかは今でもまだまだ勉強させてもらっているところです。サムライトさんによる分析を聞いた上で、じゃあ次はこれを試しましょうとか、この分野で読まれたのであれば近い分野で似たようなコンテンツを作ってみようとか、話し合いながら決めています。

あとは広告施策によって拡散したコンテンツと、オーガニック検索で流入してくる記事があるのですが、どういう記事が検索で入ってきやすいかなど、そのあたりも一緒に探り当てていったというところがあります。

色々と同時進行で検証していく中で、やはり今はまだ「SDGsとは何か」という基本的な情報が求められていることが見えてきました。そこで、SDGsを徹底的に分かりやすく解説する記事を作っていくという方針を立てて、サムライトさんが得意とするSEOもしっかり行ったところ、「SDGsとは」という記事が非常に読まれるようになりました。現在の流入経路としても圧倒的です。

そんな感じで試行錯誤しながらひとつひとつデータやノウハウを積み重ねていくことで、次第に”成功”と思われる記事が出てくるようになったので、そこを伸ばしていくためのPDCAを回しているところですね。


https://miraimedia.asahi.com/sdgs-description/

――成功事例といえば、エシカル消費の記事が南山大学のAO入試問題に取り上げられたそうですね。

エシカル協会の理事である末吉里花さんに何本かコラムを書いてもらっていたのですが、そのうちの一つが2019年度の南山大学(名古屋市)のAO入試で出題されました。

エシカル消費というのは、自分の使っている物、買っている物について、裏の労働環境や環境問題にまで思いを馳せようという考え方です。それが大学入試に取り上げられたということで末吉さんも喜んでいましたが、私自身も大学の先生方にコンテンツを読んでもらっているということが分かり、うれしかったですね。

オウンドメディアをSDGsのプラットフォームにしていきたい

――SDGsは今後ますます注目されそうですが、最後に、オウンドメディアとして今後の展望をお聞かせください。

おかげさまで「SDGsのメディアといえば朝日新聞」という評価ができあがりつつあるのかなとは思います。引き続き、全ての方にとって広く分かりやすくという方向性を続ける一方で、最先端の動きや、SDGsのアプローチを取り入れた好事例を深掘りするといった朝日新聞が得意とする領域も意識的に増やして、フロントランナーに対する情報発信も強化していきたい、というのが最近考えていることですね。

また、私たちはSDGs関連の施策としてメディアでの情報発信を行うだけでなく、各地でSDGsテーマのイベントも定期的に実施しています。その他に、まだかなり実験的な段階ですが、Facebookの非公開グループでコミュニティを作り、SDGsに熱心な方たちや、イベントに参加してくれた方たちとのつながりを持とうとしています。サイト運営と、イベントと、コミュニティ運営。これを三位一体で運営していきながら、私たちと一緒にSDGsに取り組んでくれる人たちの輪を広げていきたいんです。

もはやサイトだけ切り離すとか、イベントだけ開催するという状況ではなくなってきています。例えば、一度イベントに参加してくれた人たちがもっとSDGsのことを知りたい、あるいは他にどんなイベントがあるか知りたい、と考えたときに、「2030 SDGsで変える」にアクセスすればワンストップでわかるという状態にしていきたいですし、サイトを見た人たちに、イベント面白そうだから行ってみたいと思ってもらうとか、そんな導線をどんどん整備していきたいですね。

情報サイトの域を超えて、SDGs×朝日新聞のプラットフォーム、一丁目一番地のような存在となれるよう、メディアの形やUXなど、サムライトさんには引き続き様々な面でサポートしていただけることを期待しています。

イベント情報もメディア内で随時更新されています。興味のある方はぜひご覧ください!

過去のイベントレポート▶︎ https://miraimedia.asahi.com/tag/event/

今後のイベント情報▶︎ https://miraimedia.asahi.com/event-news-list/

インタビュー後記:リニューアル成功のカギを握るのは丁寧なPDCA

コンテンツマーケティング施策の一つとして定着しているオウンドメディアですが、日々の運用を続けることに精一杯になってしまい、何かしら課題を感じていたとしてもメディア全体のリニューアルまで考える余裕がない、といった企業が多いのが現実かもしれません。

そんな中、「2030 SDGsで変える」は、朝日新聞社の経営方針に合わせる形でリニューアルに踏み切られました。

企業理念やメッセージを発信する場としてオウンドメディアは有効であり、「SDGs」テーマへの方向転換はある意味必然だったかもしれません。しかしメディアの方針やコンテンツの出し方など、運用面についてはリニューアル後の課題として残っていました。これに対し、朝日新聞社様では、ひたすらユーザーに向き合い続け、PDCAを回して改善を重ねることで、その課題を解決されてきたことが今回のインタビューから明らかとなりました。

オウンドメディアの進化系である“プラットフォーム化”という目標も、PDCAを繰り返すことで実現へと近づくのではないでしょうか。サムライトもぜひそのお手伝いをさせていただきたいと思いました。

サムライトでは、オウンドメディアの新規立ち上げはもちろん、既存メディアの見直しやリニューアルについても多くの支援実績がございます。長期的に企業様と並走しながらPDCAを回していけることもサムライトの強みです。オウンドメディア施策で何かしら課題をお持ちの方はお気軽にご相談くださいませ!

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