オウンドメディアを始めるための、社内決裁へのアプローチ論


コンテンツマーケティングやオウンドメディアは、ここ数年で急速に日本でも浸透してきています。しかし、その概念や手法を正しく理解している人は、まだ多くありません。

このことが顕著に現れるのは、オウンドメディアを始めようとする、まさにその時。社内に提案し、決裁を仰ぐ際に障壁が立ちはだかり、担当者を悩ませます。

この記事では、社内提案・社内決裁をスムーズに進めるために、何を考え、どのようにアプローチしていけばいいのか、オウンドメディアならではの事情を含めて考察します。

「オウンドメディア、始めたいのに始められない!」社内提案・社内決裁のカベ

冒頭で述べたように、コンテンツマーケティングやオウンドメディアについてしっかり理解している人は、まだまだ多くないのが現状。

したがって、社内に起案する際には、以下のような疑問・質問が出ることが予想されます。

  • そもそもオウンドメディアとはなにか
  • なぜやる必要があるのか
  • どんなメリットがあるのか
  • 経営やマーケティングにとってどんな意味があるのか
  • オウンドメディアをやるとどうなるのか

担当者としては、社内のメンバー、上司、経営層から次々と出てくる疑問・質問に適切に回答し、社内提案・社内決裁をスムーズに進められるよう準備が必要になります。

社内提案・社内決裁の事前準備!情報の整理と分析が不可欠

では、社内から出てくるさまざまな疑問・質問に答え、決裁をスムーズに進めるために、どんな準備をすると良いのでしょうか。ここでは3つのポイントを紹介します。

1.自社の現状を正確に分析する

まずは、自社の現状について整理しましょう。経営方針やマーケティング戦略に始まり、すでに実施しているマーケティングやブランディング施策、強みや差別化ポイントなどをきちんと把握することで、オウンドメディアを始める必要性や、オウンドメディアの活かし方が見えてきます。

また、社内決裁をスムーズに進めるためには、上司や経営層が重視する内容や決裁基準を整理しておく必要があります。どんなに良い内容であっても、上司や経営層の考え方と乖離していたり、重視するポイントが抜けた内容では、決裁を得るのは難しいでしょう。

正確な現状分析に基づき、社内の判断基準に沿った提案であれば、理解も納得も得やすいはず。自社の現状整理には時間も手間もかかるかもしれませんが、きちんと向き合っておくとこで、実際にオウンドメディアを始めて、運用していく際に活きてくることでしょう。

2.オウンドメディアの特徴をしっかり理解する

オウンドメディアを始める担当者が、「オウンドメディアとは何か、どのようなものか」を決裁者や社内に説明できなくては、決裁も理解も得ることは難しいでしょう。

「なんだかよくわからないけど流行っているらしいから始めましょう」という提案には説得力が全く足りません。また、自社の現状を正確に分析していても、どんなオウンドメディアを運用すべきか描くことが難しくなってしまいます。

「我が社の現状はこうです。したがって、オウンドメディアのこういう特徴を活かすことが重要で、こうした成果を期待できます」と言えるよう、担当者自身がオウンドメディアをしっかりと理解することが大切です。

たとえば、オウンドメディアの特徴として、以下のような点が挙げられます

  • 潜在層とのコミュニケーションに適し、”未来の顧客”と出会い、育てられる
  • 価値ある情報を提供することにより、ターゲットとの関係を構築・強化できる
  • 中長期の施策として、継続することでメリットをより最大化できる
  • 発信したコンテンツそのものが企業の資産となる
  • 自社が所有するメディアのため、情報のコントロールが容易

など、その特徴を理解した上で、自社が行うことにどのようなメリットや価値があるのか説明できれば、社内提案の説得力もまるで違ってくるでしょう。

3.何がしたいのか、どうなるのかを明確に描く

自社の現状とオウンドメディアの特徴を理解できたら、次のステップはおのずと決まります。自社がオウンドメディアで「何がしたいのか」を明確にすることです。そして、最終的に「どうなるのか」までを描くべきです。

オウンドメディアの目的は何か、どのような結果につながり、どのような成果を期待するのか。この点が曖昧では、社内決裁が難しいだけではなく、もし社内決裁を通過しても、その後の運用フェーズにおいて「いま、成功しているのか」を判断する基準がなく、運用の継続が困難となります。

社内に提案する前に、オウンドメディアの目的や期待する成果、さらにその先にどんな世界が拓けるのかを明確に描き、上司や経営層に共感してもらえれば、社内決裁を進めることはもちろん、中長期に渡ってしっかりと取り組める施策となっていくはずです。

社内決裁のためにまとめたい、オウンドメディアの6W2H

事業計画を立てる際などにも役立つといわれる「5W1H」。これは、誰が(Who)、いつ(When)、どこで(Where)、何を(What)、なぜ(Why)、どのように(How)を表したものですが、さらに、誰に(Whom)、いくらで(How much)を加えたものが「6W2H」です

社内決裁に向けた準備として、情報の整理や分析ができたら、提案内容を「6W2H」にまとめてみましょう。どのようにまとめれば良いのか、以下で解説しますので、ぜひ参考にしてください!

Who〜 誰がオウンドメディアを運営するのか。社内の体制をまとめる

Whoは当然、「自社」になるのですが、そこで終わってしまってはオウンドメディアの運営計画としては不十分でしょう。

社内の誰が、どんな役割を担うのか。必要なのはメディアの責任者、編集長といった役割だけではありません。関わるべき社内の関係者を想定し、事前に了解を得ておくことが重要です。社内提案の段階で、全社あるいは関係部署を巻き込んだ横断的なプロジェクトであることを明示しておくことは、スムーズな運用につながります。

また、運営やコンテンツ制作を外注し、パートナーの支援を受ける場合には、その窓口やパートナーの役割を含め、運営体制を明確にすることで、スムーズにプロジェクトをスタートし、運用を進めることができるでしょう。

When〜 いつ始めるのか。スケジュール感は中長期の施策であることを踏まえる

オウンドメディアをいつ始めるのかを考える際には、サイト制作や初期コンテンツの企画・制作にかかる時間などを踏まえて、無理のないスケジュールを立てましょう。加えて、会社の経営計画やマーケティングのスケジュールに適しているか、という点での検証も必要な場合があるでしょう。

そして、考えるべきは「いつ始めるのか」ということだけではありません。オウンドメディアは中長期のスケジュールで継続して運用することで、効果やメリットが最大化していく特徴がある施策です。その点を踏まえた長期計画と、半年〜1年の運用計画を策定し、「最終的なゴール」と「直近でやるべき施策」とを明確にしましょう。

Where〜 どこで展開するのか。Webサイトだけで終わらないプラン

オウンドメディアを運営する必要性を説明すること、すなわち「なぜオウンドメディアなのか、なぜWebサイトなのか」を伝えることは、社内決裁を得るためのポイントのひとつと言えるでしょう。

ここで大事な点は、オウンドメディアが単にWebで展開して終わるものではないということ。他の施策と連携させることでさらに大きな効果を発揮することができます。

アーンドメディアやソーシャルメディア、ペイドメディア、広告等の連携はもちろん、パンフレットやリーフレットといったアナログ媒体でのコンテンツの再利用、オフラインのセミナーやイベントとの連動など、組み合わせられるプランをぜひとも考えたいものです。

提案時に、単に「新しくメディアサイトを作ります」、「ブログを始めます」というだけではなく、他の手法・施策と連携したプランを提示できれば、より説得力を高めることができます。

Whom〜 誰に向けたオウンドメディアをつくるのか。ターゲットを定義する

「ターゲットなくして、コンテンツマーケティングもオウンドメディアもない」と言って良いでしょう。

ターゲットについては、代表的な人物像を定義するペルソナの設定を行うことが一般的ですが、BtoBの場合や、ターゲットエリアが広いビジネスの場合には、ユーザー属性を定義し、セグメントを明確にするだけでも十分でしょう。

オウンドメディアでは「価値ある情報を発信する」ことが重要ですが、「何が価値があるのか」を決めるのは、この「誰に向けてのメディアか」という部分です。社内提案の段階で、誰に向けたメディアを作るのかは必ず明確にしておきましょう。

Why〜 なぜオウンドメディアをつくるのか。目的を定める

なぜオウンドメディアが必要なのか。オウンドメディアを運用する目的は何なのか。このことを事前に定めておくべきなのは、言うまでもないことでしょう。

自社の状況や経営方針、マーケティングやブランディングの戦略に沿った目的を定めることはもちろん、目的を達成するうえで重要な指標が何であるのかも定義しておくことが重要です。

目的だけでなく、KGI(重要目標達成指標)やKPI(重要業績評価指標)を一緒に定めておくことで、PDCA運用による継続的な改善を図り、より成果の出やすい環境を整えることができます。

ただし、目的や指標の設定を行う際には、「オウンドメディアの効果は数字だけで評価しきれないこと」、「中長期に渡る施策であること」を踏まえた目標設計をお忘れなく…。

What〜 何を伝えるのか。ターゲットの体験や変化を想定する

オウンドメディアによって何を伝えるのか。実際に発信するコンテンツのイメージを共有することは、社内決裁だけでなく、実際の運用に向けて非常に重要なポイントのひとつです。

コンテンツ発信において落とし穴となるのが、「伝えているつもり」になってしまうこと。その落とし穴を避けるためには、「何を伝えるか」の設定だけで終わるのではなく、「伝えたことによってターゲットユーザーは何を体験し、どのような変化を遂げるのか」をきちんと想像し、設定することが重要です。

実際に運用する際には、「ターゲットユーザーが得ている体験が不十分ではないか」「変化を起こすために十分な情報が与えられているか」という観点で、伝えたいことを正しく伝えられているか検証し、継続的に改善を図っていく必要があります。

初期段階で「コンテンツで伝えること」をしっかり設定することで、「伝えているつもり」の落とし穴を避けることができるでしょう。

How〜 どのように伝えるのか発信方法。コンテンツ流通まで見通す

オウンドメディアにとって最大の課題とも言えるのが、「どのように伝えるのか、届けるのか」という点です

伝えたい情報を丁寧に盛り込んだコンテンツをWebサイトに並べる。するとその情報がユーザーに届き、見てもらった結果、成果につながっていく…。情報が氾濫している昨今、このような期待は現実的ではないでしょう。

「どのように伝えるのか」は、ターゲットとどこで接触できるのか、また、オウンドメディアや各コンテンツの目的に適した場所はどこか、という観点で考える必要があります。具体的には検索エンジン、ソーシャルネットワーク、各種の広告やメディアなど大枠から徐々にブレイクダウンしていくことになります。

社内決裁に向けて準備する際には、「ターゲットユーザーに対して、①何を②どのように伝えるのか」は一連の流れとしてセットで考えましょう。効率的であるだけでなく、より実現性の高い内容になっていきます。

How much〜 いくらで。費用対効果も長期的に捉えることが必要

社内決裁の際、期待できる効果に対して適切な予算かどうか、つまり費用対効果が適正かどうかが大きなチェックポイントとなることは多いでしょう。

ここでも考えておきたいのは、オウンドメディアが中長期の施策であること。オウンドメディアの費用対効果は長期的に考えれば、運用方法次第で非常に高い費用対効果が期待できます。また、コンテンツ自体が資産となることや、コンテンツを通じて得られる信頼や好感なども”数字に表れない効果”として考えることができます。

しかし現実は、予算とそれに対する効果を半年〜1年といった単位でジャッジされることが多いのではないでしょうか。このため、Whenの部分でも述べたとおり、長期の全体計画と直近の計画のそれぞれの費用・効果をセットで提示することが必要になるかもしれません。

オウンドメディアを始めたはいいものの、立ち上げから目先の期間をどう運用するかに終始し、短期間で成果を判断してしまい、オウンドメディア本来の価値を発揮しないまま打ち切り…。失敗例として多く見られるケースとなっています。

提案に向け、オウンドメディア運用の予算や社内で利用可能なリソース規模が定まったら、期待されている成果に対して十分なのか、事前に検証したうえで最終的なプランを定めましょう。

社内決裁をあきらめた方が良いケースもある!?

事前に情報の整理と分析を行い、オウンドメディアの6W2Hをまとめ、社内に提案。それでも理解が得られない場合は、無理に押し切るのではなく、一定の理解が得られるまで社内の説得を優先した方が良いかもしれません。

オウンドメディアは「自社が所有するメディア」です。したがって、社内の理解や協力が得られないまま見切り発車しても、十分な効果が発揮できない可能性が高いと考えられます。

たとえば、直接的な売上貢献だけが求められ、CV(コンバージョン)やCPA(顧客獲得単価)ベースの計測が重視されたり、短期的な費用対効果を追求されたり、社内が無関心で運用への協力が得られなさそうな場合は、時間をかけてでも社内の理解を得てから、運用を開始する方が成功しやすいと言えます。

オウンドメディアはあくまでもひとつの手法であり、取り組むメリットは大きいものの、絶対に取り組む必要があるものではありません。自社の状況にフィットしない場合には、冷静な判断と行動が必要でしょう。

オウンドメディアを始めるために最も必要なもの。「信念と情熱、あきらめない心」

コンテンツマーケティングやオウンドメディアについて、社内理解や決裁を得るまで、さまざまな障壁が立ちはだかることは確かにあります。時には、社内決裁をあきらめ、理解獲得のための活動を優先する必要もあります。

だからこそ、オウンドメディアが自社にとって必ず役に立つという信念と、取り組みを成功させるための情熱、そして中長期に渡る施策を継続するあきらめない心。これらが、社内決裁を得るために最も必要な要素となるのではないでしょうか。

担当者の想いが周囲に伝われば、少しずつ社内の理解も、協力も得やすくなっていくことでしょう。その上で、今回紹介した事前情報の整理・分析や、オウンドメディアの6W2Hをまとめた提案で社内決裁を仰ぎましょう。

血と汗と涙、努力の結晶とも言えるオウンドメディアを始め、正しく運用できれば、いつの日か予想以上の成果をもたらしてくれるでしょう。