「記事を通して読者へおみやげを」ネットコンシェルジェ尼口氏のコンテンツ戦略


連載「メディアメーカー」

 

スタートアップに特化した情報や考察を発信するブログメディア、

The Startup編集長の梅木雄平がメディアにまつわる人々を取材し、

メディアの未来を紐解いていく。

秀逸なオウンドメディア運営者への取材を通して、オウンドメディアの立ち上げ方や運用方法を紹介していくコーナーの第二弾は、ネットコンシェルジェブログを運営する、株式会社ネットコンシェルジェ代表取締役尼口友厚氏にお話を伺った。

尚、ネットコンシェルジェをコンテンツマーケティングの視点で筆者は以前紹介している。(参考:ネットコンシェルジェに学ぶ秀逸なコンテンツマーケティングの条件)

オウンドメディアを立ち上げた背景

ネットコンシェルジェの主力商品はECサイトのブランディングだ。この手の商材は営業で販売しにくい特性がある。

− 尼口氏「こちらからサービスの魅力を説明しても、売り込みっぽくなってしまいます。ブランディングには潜在的な需要はあっても、企業がその必要性に気づく顕在的な瞬間はそう多くありません」

自分たちから営業せずとも、クライアントを拡大する手法はないのか。そんなとき、後にネットコンシェルジェブログのコンセプトメイクをすることになる町田龍馬氏のZen Startupというブログに出会った。そこでコンテンツマーケティングを知り、その可能性に着眼し、彼にコンタクトを取った。

− 尼口氏「当時のコンテンツ発信といえばメルマガが主流でした。メールアドレスも取れないブログスタイルで良質なコンテンツを発信することを少し不思議に感じたんです。彼と会う中で、インバウンドマーケティングという概念を知っていきました」

こうして尼口氏は、ブログ記事のようなコンテンツで見込み客を獲得して行く「インバウンドマーケティング」やその礎となる「オウンドメディア」に取り組もうと考え始めた。

コンテンツ設計のプロセス

町田龍馬氏をアドバイザーに加え、尼口氏はコンセプトを練った。

− 尼口氏「会社がもともと備えている魅力は何か。それを引き出すことから始めました。

オウンドメディア一般にいえると思いますが、

市場性』『専門性』『継続性

この3つのキーワードが重要だと考えています」

どれくらいそのコンテンツに興味を持つ見込み客がいるかという「市場」。

その市場に対して自分たちが自信を持って発信できるという「専門性」。

単発ではなく、ネタが尽きずに続けられるかという「継続性」。

この3つはオウンドメディア立ち上げを検討する時のチェック項目にしてもいいかもしれない。

ネットコンシェルジェブログでは海外のECサイトを中心にかなりマニアックなネタを扱っている。どのようにネタを収集し、記事化しているのだろうか。

− 尼口氏「一番手っ取り早いのは、社内のリサーチレポートをコンテンツとして公開してしまうことかもしれません。僕たちは仕事柄、海外のECサイトに対しての興味が強く、ちょこちょこリサーチしていました。これなら社外の人も喜んでくれるだろうなとおもって、これをボリュームアップして、公開しました。

実際、ネットコンシェルジェブログは尼口氏自身が記事を書いているという。

− 尼口氏「記事は自分で書いていますが、実はもともと文章を書くことがすごく苦手でした

デザイナーとしてキャリアをスタートし、エンジニアにもなって、その後ディレクターとなったのですが、企画書を書くのが嫌いで、企画書を書くくらいなら会社を辞めると言って、企画書を書かなくても良いようにしていたほどです」

それほどまでに文章を書くことが嫌いだった。しかし、ディレクターとして効率的に仕事を進めていくには文章を書くことは不可避だった。なぜ文章を書けるようになったのか。それがメールだったというのは意外だ。

− 尼口氏「仕事を円滑に進めるために、メールでこちらの意図を伝えるのが重要だと感じ、メールを丁寧に書くようになりました。するとメールが上手くなっていきました。ブログもメールを書くつもりで書いています。身近なクライアントに新しい事例を伝えるような感覚ですね」

読者には記事を読んで、「おみやげ」を持っていってほしい

オウンドメディア運営において、読者に「おみやげ」を持っていってもらうことを意識していると尼口氏は言う。

− 尼口氏「僕はおみやげと呼んでいるのですが、記事ごとに学びや気づきなど、読んで良かったと思える何かを入れることを心掛けています。先ほどお伝えした”ブログをメールのつもりで書く習慣”も、このおみやげを提供する意識から来ていると言えます。

ECサイトの事例を取り上げることが多いのですが、事例の良いところを見ておみやげを考えるようにしています。その方が取り上げられる側も嬉しいですよね。実際に海外ECサイトのオーナーから御礼の連絡をもらったこともありました。批評記事では御礼をもらうことは難しいですよね(笑)」

世間からは辛口メディアと評されることもある「The Startup」を運営する筆者としては耳の痛い話であったが、読者が学びや気づきを得ることが大事だという点には強く共感する。読者の役に立つというのはそういったことであり、企業の一方的なPRが役に立つことは正直あまりないだろう。

ネットコンシェルジェで人気だったのは、例えばこんな記事だという。

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こうしたコンテンツ設計について留意している点を伺った。

− 尼口氏「特段ライティングに気を使ったとか、変化を加えたわけではありません。取り上げるテーマやネタの切り口が全てのようです。必ずしもトレンド、世間の話題に沿ったものが人気というわけでも無いように思います。

意識している点は、毎日書くということです。ブログを読んでもらうことを習慣にしてもらうことが何より大事であり、そのために文章のボリュームやテンポは多少ですが気にしています。」

最後にオウンドメディア運営で最も難しい「効果検証」について聞いた。

− 尼口氏「ネットコンシェルジェブログを始めた目的は『営業』なので、どれだけ仕事に繋がったかを効果検証できれば良いのですが、なかなか難しいですね。

検証のためにはそのプロセスを分解して、段階的な成果も確認していく必要があります。ただ、このプロセスの分解というのがやっかいで、ここを間違えると正しく評価できません。また、ブログ運営には副次的な効果も多く、全てを定量的に検証するのは不可能です。

強引に定量的に検証すると過小評価されると思います。

今回のブログはたまたま上手くいきましたが、思い通りにいかないことも多いと思います。僕のブログも半年試してみて良い反応が得られなかったら、テーマを変えるなり辞めるなりするつもりでした。

ただ、実際にやりはじめてみると色々な反応をもらうようになりまして。実際に『読んでます』など生の反応をもらえると、やめられないですね(笑)。僕にとっては、これが一番の効果検証です。

Google Analyticsではわからない。それくらいの感覚で挑んだ方が、人の心は動かせるのではないでしょうか

ネットコンシェルジェのようなB2Bサービスは、オウンドメディアによるインバウンドマーケティングが向き、効果検証もしやすいと一般的には言われている。それでも定量的に効果検証することは難しいようだ。

問い合わせに直接的に繋がることもあれば、オウンドメディアの運営を続けることでブランディングとなり、中長期での間接的な反響も得られるようになる。

オウンドメディアは中長期的な観点でじっくり育てる気概で臨まなければ、成功はおぼつかないと考えさせられた。

プロフィール

尼口友厚

株式会社ネットコンシェルジェ代表取締役
(株)キノトロープにて大手コスメ会社のEC支援を担当。その後同社の資本を得てeコマース専門のプロデュース会社(株)ネットコンシェルジェを設立。以来、年商100億円を超える大手ECからスタートアップまで、支援実績は8年間で125社に上る。

オウンドメディア:ネットコンシェルジェブログ(http://netconcierge.jp/blog/

 

著者プロフィール

梅木雄平

The Startup」編集長。慶應義塾大学卒業後、複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、独立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup運営の他、東洋経済オンラインへの寄稿も手掛ける。3月20日に単著「グロースハック」を発売。