【インタビュー】「1年前は全ての投資家に断られました」カップル専用アプリ「Pairy」が1億円の資金調達を実現した秘訣


(TIMERS inc. CEO高橋才将氏)

カップル専用アプリ「Pairy」を運営する株式会社TIMERS。
2013年12月には、インキュベイトファンド等のベンチャーキャピタルを引受先とする第三者割当増資を実施した。

フジテレビ及びドコモのピッチコンテストを相次いで制覇するなど勢いに乗る同社。その資金調達における目的と今後の方向性ついて、CEOの高橋才将氏にお話を伺った。

1年前は投資を全て断られました

– 先日、1億円の資金調達が発表されましたが、今回が始めての調達なんですよね?

はい、そうです。起業した際に、1年間は外部からの出資を受けずに自己資金だけでやろうという判断をしました。

その間の資金は主に受託業務で凌いでいましたが、受ける業務はディレクションやデザインなど。エンジニアについては100%サービスの開発に専念してもらっていましたね。自社サービスの開発を止めない様にするためです。

実は「Pairy」のローンチ後、実際に出資を受けようと思って幾つかのVCを回ったことがあったのですが、その際は全て断られまして(笑)

– えええ!その理由は何だったのでしょうか?

それは、我々がネットビジネスのことを何も分かっていなかったという事ですね。サービス自体も伸びて無かったですし、自分たちがサービスの価値を本当の意味で理解できていませんでした。

ですから投資家への伝え方も良く無かったと思います。当時は単純に「カップル専用のSNS」だと対象を括っていただけでしたので、まったく評価されませんでした。また、中途半端にマネタイズのテストをしたり、考え方が定まっていなかったと考えています。

そこで、「これはマズい」という事になり、仕切り直しを図ったのです。改めてサービスの価値や提供したい体験について考え直しました。メンバー間でとことん突き詰めて考えた結果、「思い出」にフォーカスしようという考えに辿り着きました。

飛躍のきっかけは、サービスの提供価値を「思い出」に絞ったこと

– なぜ「思い出」なのですか?

例えば、弊社でのアンケート結果によると恋人との1ヶ月前のチャットを振り返る人が何と40%もいるという事が分かっています。想像以上にカップルは思い出を大切にするという事ですね。

それまでは「ユーザーファースト」を徹底しきれていなかったという反省もありましたので、サービスの提供価値を再定義しました。
つまり、「カップル専用アプリで機能が豊富」という事では無く、「思い出を作る、振り返る」という体験をより良くすることだと定義したのです。

それからは、思い出を積み重ねていきたくなるような機能を提供するなど、再定義した提供価値を意識したサービス設計、ユーザーエクスペリエンスを追求しました。その結果、ユーザーの継続率が非常に高くなり、サービスの改善につながりましたね。

インキュベーションプログラムへ参加した理由

– なるほど。では、ドコモ・イノベーションビレッジへ参加されることになった理由は何だったのでしょうか?

先ほど申し上げたように、IT・ネットビジネスのことが分かっていないかったという事が大きいですね。広告代理店出身ということもあり、IT業界では一般的な考え方なども知りませんでした。実際、他の会社があれだけ資金調達しているのを見て、その方法も理由も分からなかったのですから。それらを理解するためにドコモのスタートアップ・プログラムに参加したというのが本音です。

その後はフジ・スタートアップベンチャーズのピッチコンテストとドコモ・イノベーションビレッジのデモデイで連続優勝!素晴らしい活躍ぶりですが、この成果についての要因は?

正直なところ、たまたまPairyに有利な審査条件だったのではと思っています。ただ、既存の売上よりもサービスの可能性や成長性を伝えることを意識しましたね。

カップル向けのSNSなんて思いつきのサービスでしょ?と思われがちですが(笑)いや、そうではなくてちゃんと考え抜かれた上で提供しているサービスなんですよ!ということを伝えてました。

例えば、デートの場所や内容を決める際に、8割のカップルが一緒に決めているというデータがあります。単純に伝えても世代が違う審査員にはなかなか信じてもらえないんですが、そういった点について時代背景を踏まえてデータを添えて伝えることで、サービスの需要や提供価値を理解してもらうように努めたことが良かったのではと思っています。

– ピッチイベントでの成果が今回の資金調達を行う上で有利に働いたのでしょうか?

実際にそういった点はあると思います。多くの投資家の方々とお話をする機会が得られましたので。

1億円の資金調達をした理由

− では、今回の資金調達の目的について教えてください。

今回の資金調達は、サービス開発体制の強化を目的としたものです。主に採用に費やす形ですね。今後は家族向けのアプリを出したり、海外展開を見据えているため、その開発体制を整えるための調達です。

− ITV、インキュベイトファンド、イーストベンチャーズの三者との取り組みと発表されていますが、どういった経緯でパートナーシップを組むことになったのですか?

前提として、我々のチームカラーに「議論で決める」というものがあり、ディスカッションを通して決める事ができる組織力をつけていきたいという考え方を大切にしています。

様々な投資家の方とお話をさせて頂いた中で、我々のサービス理念やビジョンについて共感をしてもらえる事と同時に、今後の方向性について一緒にディスカッションをして進めていくやり方を好む方と組ませて頂きました。

投資家にも様々なタイプの方がいらっしゃいますが、お話させて頂いた中で、投資家自身で確固たる「公式」を持っている方と、起業家の意向を酌みながらディスカッションをして意思決定を進める方の2パターンがあるなと思ったんです。どちらが正しいという話では無く、我々が大切にしている考え方を踏まえた結果として、後者の方と一緒に取り組むことにしました。

サービス開発体制こそが競争優位性に

− 開発体制の強化が目的という事ですが、具体的に強化したい内容について聞かせてください

最近、個人的にはディレクターの能力がサービスの成長に大きく関わってくるなと強く感じています。エンジニアと同等、もしくはそれ以上にディレクション能力やサービスプランニング能力が成否を分けると。そう考えた場合、チームとしてのサービス改善力および修正力、つまり組織としての強さが競争優位性になると考えているのです。

広告代理店出身の私たちが言うのも何ですが、正直マーケティング力は現時点では全く要らないですね(笑)。今後は活かせる場面があるかもしれないですが、今はそんなことよりもプロダクトにフォーカスすることだと思っています。そうやってプロダクトの改善を突き詰めた結果、4ヶ月でPairyへの流入数が3倍になりました。

– それは素晴らしいですね!具体的にはどんな施策を行ったのですか?

例えばトップ画面に分かりやすく「数値」を出したこと。ユーザーに「思い出を貯める」という体験を理解させるようにしました。

これも業界の常識を考えれば、数値をフッターに並べた方が操作性という意味では良いのかもしれません。でも、壁紙の上にボタンがあった方が「二人のアプリ感」が出ると思うんです。通念に捉われずに「思い出を振り返る」という価値提供を最大化するには?ということを判断軸にしています。

– 常識に捉われないというのは非常に興味深い考え方ですね

はい。私が最近強く思うのは、自分のプロダクトのことは自分が一番よく知っているということ。これまでwebで活躍してきた人であっても、アプリのことは知らないというケースが多い様に思います。実際にwebをやられている方とお話をしても、皆さんアプリは分からないと仰いますし。当然、我々が扱う現代のカップルの価値観や考え方についても知らない訳ですね。

例えばPairyについて、本当に多くの人から「ソーシャルメディアへのシェア機能が無いからダメだ。」と言われ続けて来たんです。
でも、実際は全然そんなことは無かったですね。ソーシャルボタンなんて無くても、クチコミで広がっています。

サービスの本質を突き詰めて考えれば、Pairyには必要無いだろうと判断した訳です。私たちはそういった固定概念に縛られず、外部の声に惑わされず、自分達の信じる道を突き進んできました。

ティファニーを超えるような「ブランド」へ

– それでは最後に、Pairyの将来的な方向性について教えてください

最終的な目標としては、スターバックスやティファニーのようにステキな顧客体験を提供できる企業にしたいと思っています。つまり、「ブランド」を作りたいということです。

例えば、恋人にティファニーの指輪をもらった時の嬉しさに勝る体験を提供するにはどうすべきか、といったことを日頃から考えています。とことんユーザーファーストにこだわることを目指していきたいですね。

また、収益化についてですが、多くの会員がアクティブに利用するサービスであれば、マネタイズも可能だという概念が念頭にあります。例えば誰もがビジネス的な可能性を疑うようなサービスであっても、Facebookのタイムライン広告の様にその時代に応じた新たなマネタイズイノベーションが生まれ、それがきっかけで事業として成立する例も多く存在します。

さらに、クックパッドの様なリテラシーが高い訳ではない一般ユーザーも、ネットサービスに課金する様な時代になり、今後その風潮がまだまだ強くなることは目に見えています。

そのため2年後のマネタイズをどうするかについて、今から確証を取ろうとしてもあまり効率的ではないと考えているのです。それよりもユーザーファーストで徹底的に攻め、結果的にその時の時代感で勝負の方法を考えようと思っています。

当然、事業として成立させる難易度が非常に高いということは承知しています。色々な起業家や投資家の方にも「よくこの領域で勝負するね」と言われますし(笑)我々が提供しているようなユーザー向けアプリは多くのスタートアップが失敗していますので、そう思われるのも理解はしています。

でも、ユーザーファーストを突き詰めて成功した企業はたくさん存在している訳ですし、Pairyという無料スマホアプリがブランド化
していく事も決して不可能では無いと強く思っています。

今後は採用を強化していく予定ですので、我々と一緒に「ティファニーを超えるようなブランドを作っていく仕事」が面白そうだと感じた方がいらっしゃれば、ぜひ仲間になって頂きたいと思っています。

– ありがとうございました!

(取材・執筆:サムライト)