ブランドには物語が必要だ――戦略としてのブランドストーリー


NEW STANDARD(旧:TABILABO)の山田です。前回寄稿したブランドパーパスの記事が予想以上にポジティブな反響をいただいて驚いています!

今回は、より実務的なフレームワーク「ブランドストーリー」を前編・後編に分けて解説します。前編で定義とその利点を、後編は具体的な作り方と事例をお伝えいたします。ブランドストーリーをご存じの方もはじめましての方も、本稿が今後のプランニングや企画の力になれたら嬉しく思います。また本稿の内容は、私の前職であるFICCで学んだフレームワークに基づき、私なりの解釈を加えた内容です。

ブランドストーリーとは何か

ブランドストーリーは、組織/人によってさまざまな解釈があります。全てが正しいという前提のもと、本稿においては下記の定義で進めたいと思います。

【ブランドと生活者の共通項を、ストーリー/メッセージにしたもの】

ブランドストーリーは「ブランド“の”ストーリー」として語られることが多いですが、本定義のポイントは上図のように、生活者との共通項を含んでいる点です。

優れたブランドをいくつも有するP&Gには「Consumer is Boss.」という文化があります。生活者の価値観が多様化している現代において、ブランド運営にはこれまで以上に生活者理解が欠かせないでしょう。その点においても、ブランドストーリーに生活者という要素が含まれることは重要な違いと言えます。

いいブランドストーリーの要諦

ブランドストーリーの定義はご理解いただけたかと思います。では、”いいブランドストーリー”にはどのような要素があるのでしょうか。一般的なブランドストーリーと”いいブランドストーリー”の違いをまとめたものが下図となります。

情緒だけで製品を買う人はいない。機能も忘れずに。

”いいブランドストーリー”には「機能」が含まれていることに注目してください。情緒的なコミュニケーションは共感されやすく話題にもされやすいです。一見”いいブランドコミュニケーション”に見えます。しかし、情緒に振り切りすぎると作品の評価で終わってしまうことが少なくありません。「いいCM(広告)だった」「表現が秀逸だった」という感想だけでは心もとないですね。ブランドに落ちてこそ、理想を言えば購買に寄与してこそ、“いいブランドコミュニケーション”と言えるでしょう。「ブランドはなぜこのベネフィットを提供できるのか」に答えるべく、情緒と機能、双方の共通項をぜひ探してみてください。

ブランドストーリーが、ブランドにもたらす価値

ではブランドストーリーがあることで、コミュニケーションやブランド運営にどのような違いが生まれるのでしょうか。3つの代表的な利点をご説明いたします。

第1の利点:ブランドと生活者のレレバンス(関係性)を強化する

共感のされやすさと言い換えてもいいと思います。あるいはブランドの自分ごと化。自分の話ばかりする人は退屈ですよね。興味のない内容だと苦痛以外の何ものでもないです。ブランドストーリーは生活者との共通項を前提とし、互いの情緒と機能を共有しています。絶妙な距離感を保てる人とそうでない人、共通の話題がある人とない人、どちらが長く付き合えるかは明白でしょう。レレバンスの強化によってファンは生まれ、そのファンの熱量はブランドロイヤリティ=ブランドへの資源として還元されます。これが第1の利点です。

第2の利点:コミュニケーションに一貫性を持たせやすい

ブランドマネジメントのもとブランド運営を行なっている場合、コミュニケーションに一貫性を持たせることがほとんどです。ターゲットである生活者に、ブランドが持つ機能と情緒を記憶してもらいたいためです。ブランドストーリーを拠り所として施策立案やクリエイティブディレクションを行うことで、全ての施策に一貫性を持たせることができます。

コミュニケーションの一貫性を通して、「リアルとデジタルの連動」「施策の個別最適化」と言った課題に答えることができるでしょう。さらに、アパレルや飲料ブランドのように、性別に依存しない・セグメントが複数あるカテゴリのブランドづくりにもアプローチできると思います。これが第2の利点です。

第3の利点:効果的かつ効率的に「ブランド」をつくれる

第3の利点は、第1の利点と第2の利点が機能することで結果的に生まれます。ブランドマネジメント配下では特に意味を持つ利点です。先述の通り、ブランドは生活者の記憶によって生まれます。

心にグッとくるものは自分が共感できるものであることが多いです。つまり共感性の高いコミュニケーションは、効果的に記憶してもらえます。そんなコミュニケーションをTV・デジタル・店頭などで繰り返し接触させることができれば、忘れられる心配もありません。1箇所だけで伝えるより効率的に記憶してもらえそうです。付け加えると、今年の施策だけではなく、来年も再来年も一貫性を保てると記憶の定着率はさらに高まります。
こうして、より短期間により少ない資源でより強固な「ブランド」をつくることができます。

愛は移ろいやすい。ブランドと生活者が恋に落ち添い遂げるには相性の良さが必要

ブランドストーリーについて、理解は深まったでしょうか。このフレームワークの優れている点は、汎用性が非常に高いという点です。ブランドづくりという「目的」にも、施策やディレクションの拠り所という「戦略」にも、共感性の高い企画を生む「戦術」としても使えます。ブランドストーリーを適切に用いることができれば、ブランドのあらゆる課題にアプローチすることが出来るのです。

ブランドの寿命は人の一生よりも長いと言われています。そんなブランドには生活者と共有する物語があるのです。物語がブランドを救う。ブランドと生活者が100年続きますように。

後編ではブランドストーリーの具体的な作り方と事例をご紹介します。