ブランドパーパスを効果的に伝えるコミュニケーション(前編)――パーパス実現の鍵は”悪”に立ち向かうヒーローになれるか


NEW STANDARD(旧:TABILABO)でマーケティングを担当している山田です。6月末にTwitterで「ブランドパーパスを効果的に伝えるコミュニケーション(仮)というお題でコンテンツを書いてみて、ブランドマーケターの方々のご意見をいただきたい」と呟いたら、ぜひSOME MEDIAで!と寄稿の機会をいただきました。若輩者であることは重々承知の上で、想いを書き綴りますので、ぜひご意見を頂戴できれば幸いです。

さて本題です。昨年頃から「ブランドパーパス」が日本でも声高に叫ばれるようになりました。このパーパスを、ブランドマーケターやそれを支援するエージェンシーはどのように取り扱い、生活者に理解していただければ良いのでしょうか。

ブランドが最も大切にしなければならないもの

パーパスとは、ブランドの存在目的・社会的大義のことです。ブランドが持つべき最上位の概念とされ、あらゆるブランドの活動はこのパーパスが起点となります。P&Gでグローバル・マーケティング責任者を務めたジム・ステンゲル氏によると、パーパスはブランドの歴史を振り返り、成長してきた過程を見つめることで発見できると説明しています。ブランドのルーツに根ざし、ブランドが社会と共有する存在目的、それがブランドパーパスです。(参考:ジム・ステンゲル『本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50』より)

戦略論の権威であるマイケル・ポーター教授が2011年に発表したCSV(Creating Shared Value)にはじまり、その後ブランド論の権威デイビッド・アーカー教授も2016年に「高次のブランド理念」を持つ重要性について触れています。ブランドマネジメントの本質はPL管理にあるため、戦略と経営という学問の領域がブランド運営の参考になることは当然と言えるでしょう。

パーパスがブランドにもたらすもの

企業やブランドが持続的に成長するためには、利益の確保が欠かせません。私は前職のマーケティングエージェンシーで、「ブランド」をつくる目的は、利益のためであると教わりました。「ブランド」を構成する要素には、大義や人格、価値観、生活者にとってのベネフィットなどが含まれています。

先に挙げたジム・ステンゲル氏の研究によると、パーパスを持つブランドは、米国の代表的な上場企業より4倍の成長率を見せたと言います。

社会課題とコミュニケーション

そんなパーパスですが、ブランドから社会に対するスタンスを表明するだけで十分なのでしょうか。注目されている社会課題を安易に取り上げてしまったことで、ブランド毀損を招くことも少なくありません。

大義を表明しないよりかは随分 ”いいブランド” であることに間違いないのですが、生活者に誤解を与えることなく強固な共感を育むコミュニケーションはもっとあるのではないかと考えています。

幅広い世代の女性を魅了する女性誌『姉ageha』

ではどのようなコミュニケーションがいいのか?非常に参考になるのが、女性誌『姉ageha』です。昨年末からSNSを中心に、表紙に記載されているメッセージが「全女子の胸に刺さる」と大きな話題となり、ニュースメディアBuzzFeedでも取り上げられました


『姉ageha』は、ギャル系ファッション誌『小悪魔ageha』の姉ブランドとして、小悪魔agehaを卒業した「25歳以上のお姉さん世代」をターゲットとしている雑誌です。特定の女性に向けて刊行されているはずの『姉ageha』がなぜ、「全女子の胸に刺さる」のか。
それは『姉ageha』のメッセージには、「女性を苦しめている固定概念や同調圧力、しがらみと戦うのだ」という強い意思が込められているからです。

『姉ageha』のパーパスは、女性が自信を持ち、自分を貫いて自由に生きられる社会を実現することだと推察できます。注目すべき点は、パーパスそのものをメッセージとして伝えていないということです。編集長・小泉さんの言葉を借りると、「ちゃんと読者目線で、彼女たち一人一人を肯定する言葉を届けたかった。」(引用:オリコンニュース)

大いなる力には、大いなる責任が伴う

私たちは、つい自分たちを主語にしたメッセージを主張してしまいがちです。自分たちが何を目指し、いかにより良いことに取り組んでいて、何を考えているのか。

しかし、私たちに共感してくれと叫ぶだけでは生活者から信頼は得られません。パーパスの主語は、社会であり生活者なのです。

ブランドは生活者を置き去りにするのではなく、生活者が「あるべき姿」の実現を応援する存在でなければならないのだと思います。「あるべき姿」は一人の女性としての姿かもしれません。母親としてかもしれません。あるいは父親として、上司として、一人の人間として。そうした生活者の方々が直面している課題に対して、『姉ageha』のようにパーパスから導かれるブランドなりの答えを提示すべきなのではないでしょうか。

ブランドの歴史から発見できるブランドパーパスは、同時に、生活者が直面している「悪」を発見することにもなるはずです。大義を持って「悪」に立ち向かう姿は、生活者とブランドの間に強い共感と信頼を作ります。強い共感と信頼はブランドに利益をもたらし、ブランドは新たな「悪」に立ち向かうことができます。「悪」に立ち向かい続けるブランドは、きっと、生活者から長く愛されるブランドになれるはずです。

大義を持ち「悪」に立ち向かう役割を持つものは、いつだってヒーローです。『姉ageha』は今日も明日も来年も、女性を苦しめる「悪」と戦い続けるでしょう。それが『姉ageha』の務めだからです。いま、世界に必要なのは「悪」に立ち向かうヒーローなのです。

ブランドをヒーローにしよう。

後編では「ブランドがヒーローであり続けるために」というテーマで考えを述べてみたいと思いますのでお楽しみに!

(後編はこちらよりご覧いただけます)


ABOUTこの記事をかいた人

山田 勇人

「ひととひとの間にブランドを。」がモットー。新卒でサムライトに入社。その後マーケティングエージェンシーFICCに転職。消費財ブランドを中心に、ブランドの持続的な成長に寄与すべく、ブランド戦略・マーケティング戦略立案からブランディング・プロモーション施策のプランニング・ディレクションまで担当。2019年よりマーケティングディレクターとしてNEW STANDARDに参加。