三越伊勢丹のオウンドメディア「FASHION HEADLINE」が目指す成果目的とは?


連載「メディアメーカー」

スタートアップに特化した情報や考察を発信するブログメディア、

The Startup編集長の梅木雄平がメディアにまつわる人々を取材し、メディアの未来を紐解いていく。

「メディアメーカー」のオウンドメディア運営者特集第4弾は、FASHION HEADLINEをお届けする。

FASHION HEADLINEの運営元である株式会社ファッションヘッドラインは三越伊勢丹ホールディングスと株式会社イードの共同出資によって設立された。今回は株式会社ファッションヘッドライン代表取締役田沼和俊氏に話を伺ってみた。

「三越伊勢丹の情報は10%を切っています」
中立性に重きをおいた情報発信

FASHION HEADLINEは2012年12月5日に提供を開始。順調にUU/PVを伸ばし、取材時である2014年3月時点では月間UU70万、月間PVは300万を超え、来年度初めには500万PVに届きそうな勢いだという。

田沼:「FASHION HEADLINEは三越伊勢丹のオウンドメディアというよりは、イードとの取り組みで作った外部メディアと位置づけています。

外部のプラットフォームを使って、情報を発信するというイメージです。

コンテンツはファッション業界に関するニュースが中心で、三越伊勢丹関連の情報は全体で10%を切っています。中立性にこだわって情報発信をしています」

(写真:田沼和俊氏)

三越伊勢丹のような百貨店が、イードのようなインターネットメディア企業と合弁会社を作り、メディアを立ち上げる。これは他に例がない先端的な取り組みである。

田沼:「そもそもFASHION HEADLINEを構想したきっかけは、百貨店業界を元気にしたいという想いでした。百貨店の市場は地方を中心に年々縮小傾向にあります。

百貨店ならではの面白さ、例えば地域産業に根ざした企画や催事場があり、そうした企業活動をもっと表現する場が欲しいと思っていました。私自身、小さな頃の百貨店体験をよく覚えていて、百貨店が大好きなんですよ」

 

東コレはもちろん、パリコレ現地取材や上海の展示会取材も! ― 独自コンテンツが強み

実際の読者層やコンテンツ内容、編集体制はどのようになっているのだろうか。まず、読者層について、深く聞いてみた。

田沼:「開始当初は、ファッション業界のニュースが中心ということもあり、ファッション業界の方が読者の中心でした。現在は一般のお客様の層まで拡がってきており、20代30代のファッション感度が高い読者が中心です。女性の比率がやや高くなっております」

ユーザーが業界人から一般側へシフトしているという。また、実際のコンテンツには三越伊勢丹ならではの知見が下記のように活かされている。

田沼:「ファッション系のニュースが最もよく読まれます。パリコレに編集長自らが赴き現地取材をしたり、三越伊勢丹バイヤーに同行して、実際に仕入れて今後店頭で扱うものを記事で紹介したりもします。そういったコンテンツは読者も敏感に反応してくださっているようです。

他にはアートやライフスタイルのカテゴリーの記事もよく読まれます。例えば、アンディ・ウォーホルの記事は時事性もあり人気がありました」

編集体制についても下記のように教えてくれた。

田沼:「編集長は外部契約で起用し、専任編集者が1名。三越伊勢丹との兼務が2名で、イードから兼務で手伝ってくださる方が3名ほどです。編集者も記事を書きますが、執筆の中心は外部ライターです。編集長の伝手やイードのネットワークを通して約50名のライターと契約しています。平日は15〜18本、土日は5〜8本の記事を新規掲載しており、月間で350〜400本ほどの記事を作成しています」

オウンドメディアにしては、携わる人数がかなり多い。月間400本もの記事が上がっているとは驚きである。記事数と比例してPVも順調に右肩上がりであるようだ。

『無料で情報発信できる場』の創造こそが、オウンドメディアの成果目的

資本金1億円の合弁会社としてスタートしたFASHION HEADLINEだが、戦略的なオウンドメディアとして明確なゴールを設定している。

田沼:「サービスリリース24ヶ月目での黒字転換を目指し、その後収益を上げて累積赤字を一掃し、事業として黒字化するつもりですが、FASHION HEADLINE単体でそれほど儲けようとは考えていません。現在はブランドからの広告出稿も入るようになり、売上の面でも成果が出始めています。しかし、FASHION HEADLINEの最終的なゴールは三越伊勢丹が情報発信を無料でできる場にすることです」

たしかに三越伊勢丹のような百貨店はかなりの予算を広告宣伝費に割いているだろう。その一部をFASHION HEADLINEの運営に先行投資し、FASHION HEADLINE単体で収益がイーブンか少し黒字が出るくらいにして、三越伊勢丹の情報発信ができる場を創っておくというのは中長期的に見れば理にかなった戦略といえよう。

田沼:「ファッションヘッドラインと事業会社三越伊勢丹のシナジー効果としては大きく2点。

ひとつは三越伊勢丹のブランディングのお手伝いができること。例えば、店頭には数多くの企画があるが、伝達の手法には限りがある。ITソリューションを活用して、企業活動、営業活動を拡散していきたいですね。

もうひとつは三越伊勢丹の店舗、またはECサイトへの集客。これは現実的なこと。直近でも伊勢丹ナイトセールスの集客施策やEC誘引施策の取り組みを試験検証してみました。」

O2Oやメディアコマースのような展開が既に実現しているようだ。

田沼:「ファッションのオンラインメディアは紙の雑誌を起点にオンラインの展開を始めたところがほとんどです。我々はオンラインを起点に、不定期ではありますが紙の雑誌も今後は出してきたいなとも考えています」

三越伊勢丹といえばファッション関連のスタートアップサービスとのコラボレーションにもいち早く取り組んでいる印象がある。同社のウェブ戦略の中で一番機能しているのはFASHION HEADLINEではないだろうか。中長期的な視座に立った先行投資から、O2O、メディアコマース、広告宣伝費の一部を担う媒体への成長など、様々な領域への波及効果が見込まれる。

今回は、FASHION HEADLINEの運営の根幹部分から先を見据えた事業内容まで知ることができた。オウンドメディア担当者や立ち上げ検討者は、学べることが多いのではないだろうか。


株式会社ファッションヘッドラインの鈴木氏(写真左)、田沼氏(写真中央)、菅沼氏(写真右)

プロフィール

田沼和俊

大手百貨店、コンサルティングファームを経て、三越伊勢丹へ。三越伊勢丹のEC統合業務を担いつつ、新たなWEBメディア戦略策定業務の責任者として、合弁会社ファッションヘッドライン社を立ち上げ。現在三越伊勢丹HDSGWEB事業部WEBメディア担当長。(4月より、三越伊勢丹EC事業部事業戦略担当長)

 

著者プロフィール

梅木雄平

The Startup」編集長。慶應義塾大学卒業後、複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、独立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup運営の他、東洋経済オンラインへの寄稿も手掛ける。3月20日に単著「グロースハック」を発売。