スタートアップに特化した情報や考察を発信するブログメディア、
「The Startup」編集長の梅木雄平がメディアにまつわる人々を取材し、
メディアの未来を紐解いていく。
Hello エブリワン。ウメキだ。
「メディアメーカー」のオウンドメディア運営者特集の最後を飾るのは、元祖オウンドメディアとも言えるあのLIGブログだ。
ただの企業ブログのはずが、いまや月間100万UU / 200万PVのメディアに成長したLIGブログの運営の秘密に迫るぜハニー。
目次
「8割まじめ2割おもしろ」の比率を。すごく、すごく大切に。
LIGブログといえば、伝説のウェブデザイナーを探すために岩上社長がスーツのまま砂に埋まったり、自分をゲイだと思い込んでいたメディア事業部・部長の竹内氏が結婚相手を募集して実際に結婚した記事が50万PVを超えたりと、お笑いコンテンツに強いメディアという印象が読者にはあるかもしれない。
どのようなコンセプトでメディア設計を始めたのだろうか。
岩上:LIGブログ自体は実は昔からありましたが、元編集長の竹内が2011年に入社し、そのタイミングで再設計しました。
オウンドメディア運用のポイントは2点。
1点目はどうすればLIGをブランディングできるか。
SEOなどにお金をかける選択肢も一般的にはありますが、僕らは当時お金がありませんでした。
技術系のネタだけ書いても読まれるボリュームゾーンが限られているので、笑いをスパイスにして盛り上げていければなと。あくまで、真面目な会社がたまに変なことをやるから面白いというトーンを守っていきたいです。
ブランディングの一環としてオウンドメディアを選び、技術ネタだけでも読まれないから、笑いも入れようということになった。比率としては、8割がウェブ制作会社らしい真面目な技術的なネタ、残り2割をお笑いに振っているという。その比率をすごく、すごく大切にしているようだ。そう、信玄餅のように。
岩上:2点目は社内教育や技術共有の場としてオウンドメディアは最適だなと感じました。社員50人全員が最低月に1本は記事を書きます。アウトプットするにはインプットの10倍必要ですしね。
記事本数の比率は8割まじめ2割おもしろとのことだが、PVもそれに近しい比率となっているという。ソーシャルメディアでバズるのはお笑い系だが、技術系の記事はSEOに強いようだ。
編集部の設置は必須!「誰に」書く文章かを意識せよ
岩上:2012年当初は編集長だった竹内がブログ専任として1人で担当していましが、現在は15名体制のメディア事業部で運営しています。ブログ担当チームという編集部機能を3名で作り、編集部でネタを考えたり、記事をupする前に校正して品質管理をしています。
LIGのメディア事業部が15人もいるとは想定外だった。実際に記事を寄稿するライターは何人くらいいるのだろうか。
岩上:先程も話にあったように、社員50名が最低月に1本は書きます。あとは外部のライターをネットワーク化していて、20名くらいの方に定期的に寄稿していただいています。ライターネットワーク自体は100名くらいいますね。ライター募集の記事を書くと1回あたり80名くらいの応募がきます。
ということは、筆者もLIGに寄稿できる機会がありそうなのか。
岩上:…まぁ、近い将来、梅木さんにも寄稿して頂く事になると思います。
岩上:編集部機能は軽視されがちな傾向があると思うんですが、めちゃくちゃ大切ですね。
トレンドになっているワードを入れた記事やSEOを意識した記事、タイトルの付け方や配信スケジュール、SNSの運用など、戦略的に取り組むべきことがたくさんあります。
特に校正が重要で、社員は文章のプロではないので、書くことに慣れていないと「誰に何を」書くという「誰に」を意識できていないことが多い。そういった点を編集部でカバーしてコンテンツを磨いています。記事は現在1日3本upしています。
問い合わせは月間100件以上。抜群のROI!
月間100万UUで200万PVに到達したLIGブログ。実際にどんな効果をもたらしているのか。
岩上:インバウンドで問い合わせが増えますが、3つに分けることができます。
まず当社はウェブ制作会社なので純粋にウェブ制作の案件の依頼がきます。月間80件ほど。営業マンがテレアポして仕事を取ってくる必要がなくなりました。
次に求職者からの問い合わせ。月間20件ほど。オウンドメディアで採用できるので、転職サイトに求人広告を出すコストを削れます。
最後に営業関連の問い合わせ。月間30件。アライアンスやメディアからの取材ですね。向こうから問い合わせをいただくと、来社してもらえることが多く、移動時間や交通費などのコストを圧縮できます。
オウンドメディアの運営にもちろんコストはかかっているが、これだけの効果があれば十分ROIに見合っているといえるだろう。LIGはこうした実績を元に他社のオウンドメディア運営も複数手掛ける。興味を持ちつつも、導入に踏み切れないオウンドメディア担当者に、オウンドメディアをどう説明しているのか。
岩上:オウンドメディアは編集部機能も持たせてしっかり運用するとなると、かなり先行投資がかさみます。
リスティングは掛け捨て。SEOがGoogleのアルゴリズムに左右される。コンテンツは資産になる。マーケティング予算をどのように配分しますか、という話だと思っています。結果的に現在、オウンドメディア運用を手伝わせていただいているのは大手の企業様が多くなっています。
やはりリスティングなどと比べてCPAで見るのではなく、中長期的にコンテンツを通して資産形成する意識がないと、オウンドメディア運用は難しいだろう。
課題解決を起点に発想し、砂浜に埋めるか納豆で塗るかの二択に行き着く
突拍子もないコンテンツがフックとなって、一気に知名度が上がったLIGだが、そのクリエイティビティはどこからくるのか。岩上社長の後ろで信玄餅を食わせようとしている竹内氏に聞いた。
竹内:笑いの記事は毎回目的や課題があり、それに応えるために作っています。
伝説のデザイナーの記事の時はデザイナーを採用するという目的があり、そこから逆算して、社員がストライキするというストーリーがあるとどうだという発想になりました。そこから、社長をスーツのまま砂浜に埋めるか、納豆で塗りまくるか。という選択肢に行き着きました。
岩上:砂浜か納豆かと聞かれまして、二択だったので砂浜を選びました。。。
竹内:私はLIGに来る前はウェブ業界ではなく、車の部品を作っていました。でも面白いことが好きで、よく面白いことを妄想していました。
「ウェブができるけど普通の人」を面白くするよりも、「面白いけどウェブができない人」にウェブの知識を付けた方が楽だということで、知り合いだったLIGの副社長にヘッドハンティングされたんです。
岩上:面白いことを考えるクリエイターは、KPIなどの数値目標は置かず、ひたすら面白いことを追求してもらうように心掛けました。ただ、あくまで真面目な会社が面白いことをするというギャップを大事にしています。クオリティにはすごくこだわりますね。
例えば、このリスティング広告代行サービスのLIGLIS。普通、LPは長過ぎて読まれないと思うんですが、クリエイティブの質や世界観を追求して、作り込みました。
取材前に絵コンテを。テキストだけでなく、写真で伝えるこだわり。
最後に、LIGのオウンドメディア運営におけるこだわりを聞いた。
岩上:今までの話にも出てきたことですが、あくまで真面目に。そして笑いでギャップを演出することですね。記事に対して突っ込みどころを残しておく。という点も重要だと捉えています。
竹内:ウェブ制作会社であることからも、写真に気を抜かないというこだわりがあります。大抵、取材や記事を書く前に絵コンテを描いています。何を伝えたいか。この場面ではどんな絵(写真)があるとより効果的に伝わるかということを考え抜いています。
岩上:前広報のジェイが出たキャリアハックの記事とか、写真にかなりこだわりましたね。
竹内:最初服を着ていないんだけれども、話が進むにつれて服を着ていき、最後にはなぜか部屋を出て行くという。服を脱ぎながらというのはありそうですが、着ながらという逆の展開はあまりないなと思い、そういったクリエイティブにしてみました。
元編集長の竹内氏は取材した感じ、少しねじが外れているというか、こういう人が面白いことを考えるんだろうな。という気がした。
なぜか信玄餅をやたら岩上社長に食わせたがっていた。
※ちなみに筆者が経営する株式会社The Startupは、
プロフィール
岩上貴洋(代表取締役)
学生時代、モバイルマーケティング、ITベンチャー企業数社に参加する。在学中からアーリーステージを対象とした独立系投資会社にて、投資業務、コンサルティング業務に従事。2007年、株式会社LIG創業。
竹内紳也(メディア事業部・部長)
2011年にweb業界未経験で株式会社LIGに入社後、編集長としてLIGブログの成長を牽引。現在はメディア事業部の部長を務める。通称「紳さん」。
著者プロフィール
梅木雄平
「The Startup」編集長。慶應義塾大学卒業後、複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、独立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup運営の他、東洋経済オンラインへの寄稿も手掛ける。3月20日に単著「グロースハック」を発売。