The Startup編集長の梅木雄平がメディアにまつわる人々を取材し、
メディアの未来を紐解いていく。
そう教えてくれた中川淳一郎氏が「あれは絶妙な切り口だ」と絶賛していたのが、「コンビニアイスマニア」を運営するコンビニアイス評論家のアイスマン福留氏だ。今回はコンビニアイスのレビューだけで月間100万PVもあるこのサイトが生まれた背景や、コンビニアイス評論家の実態をお届けする。
目次
アイスの中でも”コンビニ”アイス。ニッチすぎるがゆえにメディアが殺到!
福留氏が「手軽だから」という理由でコンビニアイス特化のレビューサイトを立ち上げたところ、ニッチすぎるがゆえにメディアの注目を集め、取材が殺到した。しかし、アイスマン福留氏は「コンビニアイスに関するサイトをやろう!」と張り切ってサイトを始めたわけではなかったという。
福留氏:「2010年に始めたのですが、ワードプレスでポータルサイトのようなデザインのテンプレートがあったんです。ポータルサイトちっくなものを作ってみたいなって。アイス好きだったのでアイスの紹介でもしようかなと始めました。コンビニアイスにしたのは、手軽だからです。アイス屋を食べ歩くほどの情熱はなくて。3ヶ月くらいで飽きましたね」
最初は、「ノリ」と「適当」が理由であった。
福留氏:「すると某電話会社から、『コンビニアイスマニアを紹介したい』というオファーがあり、慌ててまた更新を始めました。紹介される際に、プレスリリースで『アイスマン福留、コンビニアイス評論家としての活動を始めます』と打ったらすごいバズってしまいまして。雑誌やTVからの取材依頼が山のように来ました」
コンビニアイス評論家。
この聞いたことのないニッチすぎる存在が人の気を惹いたのだろうか。そう、かつてのサカナクンのように。
福留氏:「『アイスマン福留』という名前も、プレスリリースを打つ時に付けました。ただの福留だとインパクト薄いんで。最初サイト上ではロボコップぽいイラストでやってたんですが、TVなどに出演することもあるので、顔出しした方がいいと思い、いっそのこと『アイスマン福留』と名乗った方が覚えてもらいやすいだろうということで、名付けました」
ニッチが大事ということは、すべて「足立区グルメ評論家」時代に教わった
福留氏:「手軽だからと始めたコンビニアイス評論ですが、ジャンルを決める際に何も考えずに決めたわけではありません。10年前に足立区のレストランをレビューするサイトを運営していて『足立区 グルメ』で検索結果が1位でした。すると足立区の信用金庫や新聞社から問い合わせがあり、足立区に関する仕事が激増しました。地域特化すると地域に貢献していると思われるようで、行政からのウケが良かったんです」
足立区グルメ評論家時代に、アイスマン福留氏はニッチの美味しさを知ってしまったのだ。
福留氏:「スイーツ領域はブロガーが多くて、アイスやスイーツだけで今や2,000本以上の記事を書いている人もいます。『コンビニアイスマニア』上の記事は700本強と、決して多いわけではありません。ただし、『アイスマン』と名乗ってしまうことや、サイトのデザインなど見せ方を工夫してきました」
サイト上ではアイスの写真がけっこう美味しそうに見えるのだが、プロのカメラマンが撮影しているわけではなく、すべてアイスマン福留氏による撮影だ。聞くと、EC事業に携わった際に食品の画像加工の仕事に従事した経験があるそうだ。その経験が役立っているという。ニッチが美味しいということがわかっても、ニッチに向く人材とそうでない人材がいる。アイスマン福留氏は紛れもなくニッチ向きの人材だ。
福留氏:「子供の頃は全く勉強ができなくて、学年400人中398人でした。勉強は嫌いですが、アニメソングや昆虫は大好きで夢中になって覚えていました。コンビニアイスも自分にとっては楽しい領域で、アイスのパッケージを取ってファイリングしていますし、アイス関連の雑誌も全て取ってあります。アイス関連の書籍を買い漁り、アイスの歴史を学び、自分で年表を作っています」
・・なんなんだ、アイスマンのこの熱量は。
コンビニアイスの自由研究をしていたら、ハマってしまったというような感じだろうか。聞いたところ、よく読まれる記事は、おもしろい商品や新商品ネタなんだとか。あと「抹茶」や「チョコミント」は根強い人気があるらしく、約1.6万人フォロワーがいるアイスマン福留氏のtwitterアカウントで呟くと、両フレーバーに関する記事はウケがいいという。
「仕事になるなんて夢にも思ってなかった」アイスマン福留の多様なビジネスモデル
趣味が高じてアイス評論家として、アイスマン福留氏の「アイス評論家業」は拡大していった。
福留氏:「まずはTVや雑誌などのメディアで、コンビニアイスを評論する仕事が増えました。
評論家といっても、実は大した評論はしていなくて、『うまい!』と言ってるだけなんですが(笑)。
アイスの歴史を知っていたり成分を知っていると、たとえば『雪見だいふく』が昨年よりもちもち感がupしたらしいというだけで、なんか食べたくなってしまったりするんですよね。勉強してそういう知識は身に付けています」
TVでアイスマン福留がお勧めのアイスを紹介すると、そのアイスは飛ぶように売れた。それを見た、アイスメーカー各社が黙っているわけがない。
福留氏:「事前に新作の発売情報や味見させてもらったり、工場見学にお誘いいただけるようになりました。メーカーさんからお仕事の依頼が来るようになりましたが、イベントの出演などスポットでお引き受けすることはあっても、「評論家」という性質上、タレントさんのようにクール区切りでガッツリ専属契約ということはありませんね。また、業界紙である『アイスクリーム流通新聞』で連載コラムを持ったりもするようになりました」
その他にもアイスマニア専用スプーン「アイスクリームシャベル」も発売し、第1弾は4日で100個が完売するほどの盛況ぶり。
ちなみに価格は2520円。決して安くはないが、コンビニアイスマニアに熱狂的なファンがいる証拠だ。商品の詳細は下記の記事を見ていただきたい。
参考:アイスマニア専用スプーン 「 アイスクリームシャベル 」
伝えたかったのは「アイスをシャベルで雪かきするような楽しさ」
「アイスをシャベルで雪かきするような楽しさを味わってほしかった」
とアイスマン福留氏は語る。
ちなみに、アイス市場は年間で約4000億円。2013年度は1994年(4296億)の史上最高記録販売高を更新し、4340~4350億円に達する見込みだという。2012年から「冬アイス」というトレンドがきており、アイスマン福留氏もTV番組でこたつに入りながらアイスの良さを語った。
メディア出演や定期連載に、メーカーからのスポットでのタイアップ。特にメーカーからするとタレントを使ってTVCMを打つよりも、アイスマン福留氏によるアイス業界に影響力のある専門家である第三者が「このアイスは美味い」と言った方が、説得力が段違いで、重宝がられる。
多様なビジネスモデルを持つ「コンビニアイス評論家業」で「ひとりで生活する程度なら十分稼げます」とアイスマン福留氏は言う。実は彼はおもしろグッズの企画会社の社長でもあるが、経営者としては不向きなのでノータッチ状態で。現在は評論家業に専念している。
ジャンル特化型メディアも中途半端な切り口ではなく「コンビニアイス」くらいまでニッチに区切り、そこで勝つとWinner takes All (勝者だけが知る世界)が待っている。「スイーツ」や「アイス」では中途半端なのだ。このニッチさ加減は中川淳一郎氏の取材であった「月刊工場長」を思い起こさせる。
「オウンド・メディアは社会の役に立たなくちゃいけない。」
自分がナンバーワンを取れるほど没頭できて好きな分野であれば、そのコンテンツは必ずや誰かの役に立つだろう。
中途半端に万人に向けて記事を書くのではなく、スーパーニッチな需要を創造するくらいの方が、案外大成功するのかもしれない。そう。アイスマン福留のようにね。
プロフィール
アイスマン福留
年間約1000種類のコンビニアイスを食べ、情報サイト「コンビニアイスマニア」を運営。今まで存在しなかった「コンビニアイス評論家」を勝手に名乗り、多くのメディアに取り上げられる。著書に『バカが武器』(扶桑社)
Webサイト:コンビニアイスマニア
Twitter:@conmani
著者プロフィール
梅木雄平
「The Startup」編集長。慶應義塾大学卒業後、複数のスタートアップ企業での事業経験を経て、独立。スタートアップ業界のオピニオンメディアThe Startup運営の他、東洋経済オンラインへの寄稿も手掛ける。3月20日に単著「グロースハック」を発売予定。